勝共思想・勝共理論

文字サイズ

33,マルクス経済学・8  「相対的剰余価値」の詭弁

マルクス経済学・8
[キーポイント]労働力だけが価値を生み出し、機械は価値を生み出さないというのがマルクスの剰余価値説です。しかし、この理論は機械が導入されることによって利潤が増大するという現実によって破綻していることを前回みました。しかし、マルクスはあくまでも労働力によってのみ利潤が生じることを実証しようと躍起となって新たな論理を振りかざします。そこで登場するのが「相対的剰余価値」なるものです。機械が利潤を生んでいるのに、必要労働時間が短縮され剰余労働時間が増えて利潤が生み出されたとする奇弁です。

 「相対的剰余価値」の詭弁
■その主張と批判■
 マルクスは労働者の労働を、自身の労働力の価値に相当するだけの価値をつくりだす労働と、それ以上の価値をつくりだす労働とに分けて、それぞれ必要労働と剰余労働と名付けたことは、すでに紹介しました。
 そして、労働日(1日の労働時間)のうち、この2つの労働に対応する部分をそれぞれ必要労働時間と剰余労働時間と名付けました。いうまでもなく、必要労働時間とは、労働者自身の生活資料を生産するに要する労働時間、すなわち商品としての労働力の価格(賃金)に相当する労働時間のことで、本来、労働者はこの分だけ働けばよいとします。
 これに対して剰余労働時間は資本家が何らの等価も支払わないで労働者に労働させている時間のことです。これこそ不払い労働(剰余労働)であり、そこからつくりだされた価値が剰余価値にほかなりません。資本家はこれを搾取して自らのふところを肥やす利潤にしており、この剰余価値の追求こそが資本主義的生産様式の本質であるとマルクスは主張するのです。
     ▼
 さて、資本家は剰余価値を増大せしめるために2つの方法を用いているとマルクスはいいます。
 その第1の方法は、労働日の延長です。つまり労働者の働く時間を延長させて、利潤を得ようというものです。もちろんその延長された労働時間は剰余労働時間となりますので、必然的に利潤が増えるというわけです。マルクスは労働日を延長することによって生ずる剰余価値のことを「絶対的剰余価値」と呼んでいます。
 もう一つの方法は、機械を導入して必要労働時間を短縮することで剰余価値を増大させる方法だといいます。これをマルクスは「相対的剰余価値」と呼んでいます。
 図を見てください。たとえば1労働日が8時間で、そのうち必要労働時間が4時間、剰余労働時間が4時間である企業があったとします。このとき資本家がより一層の利潤を得ようとして労働日を2時間延長したとすると、その2時間は即、剰余労働時間の延長となり、剰余価値は4時間分の価値から6時間分の価値へと増大します。このように労働日の延長によって生産される剰余価値が絶対的剰余価値というわけす。
 マルクスは「剰余労働への渇望は労働日の無際限な延長への衝動に現れる」(『資本論』)といいます。資本家が利潤を増やすために行った方法はまず労働日を延長することだったというのです。しかし、労働日を延ばすといっても物理的限界があります。労働の強度を高める方法もありますが、労働者の肉体的、精神的な限界から無制限に伸ばすことは不可能です。労働日をある限界を越えて延長することはできないのです。
 そこで資本家は機械を導入することによって労働時間を延長しなくても、利潤を増やす方法を採るとマルクスはいいます。
 たとえば新しい機械を導入して労働生産性を高めるとき、労働力の価値が半分に下がれば必要労働時間は半分に縮まって2時間となり、そのとき労働日が変わらないとすれば、剰余労働時間は六時間になります。このように労働生産性が高まった結果、必要労働時間が短くなることによって生産される剰余価値が相対的剰余価値というわけです。
     ▼
 しかし、これこそマルクス自身が剰余価値論の誤謬を認めているようなものです。
 第一にいえることは、マルクスは労働時間を延長しなくても機械を導入することによって利潤が増大せしめることができるということ認めざるを得なかったので、相対的剰余価値なる概念をつくり出したということです。
 マルクスによれば、性能のよい機械を導入すれば、質のよい商品が大量に生産されるようになり、商品一つひとつの価格は安くなります。それに伴って労働者の生活必需品の価値も下がり、結局、「機械は彼の労働力を減価させる」(同)ことになります。これは労働力を再生産するのに要する労働時間、すなわち必要労働時間が短縮されたことを意味し、仮に労働日が一定であるとすれば、剰余労働時間が増大し、したがって剰余価値が増大したことになるというのです。そこでマルクスは「相対的剰余価値は労働の生産力に正比例する」(同)と述べました。
 このように資本家は労働の生産力を高めて必要労働時間を短縮することによって、剰余価値を増大させることができるというのですが、ここに奇弁があります。「労働の生産力を高める」ということは、より優秀な性能の機械を導入して、生産性を質的にも量的にも高めることを意味しているにもかかわらず、マルクスは「生産手段(機械)の性能を高めて必要労働時間を短縮する」といわないのです。あえて「労働の生産性を高めて」必要労働時間を短縮するといい、巧妙に論点をすり替えているのです。
     ▼
 なぜこうしたすり替えを行ったのでしょうか。もし機械の導入によって剰余価値が増大しているとするなら、労働力のみが価値を生み出すとした彼の経済論が根底から崩れてしまうことになるからです。それで、あえて「労働の生産性を高めて」とすることによって、あくまでも労働力の価値増殖性によって剰余価値が増大することにしなければならなかったのです。
 そもそも労働日を必要労働時間と剰余労働時間に二分すること自体がペテンの始まりです。労働時間を一定にしてこの二分法にしたがえば、利潤が増えれば当然、剰余労働時間が増え必要労働時間が減ったことにするしかないからです。
 機械が利潤を生み出したことを認めないために、必要労働と剰余労働という概念をつくりあげ、つまり概念の捏造を行って相対的剰余価値なるものを導き出したのです。
    ▼
 仮に生産性を高めて必要労働時間を短縮するとするなら、低開発国では生産性が低いから必要労働時間が長いでしょうし、先進国では生産性が高いから必要労働時間がずっと短いはずです。したがってそれに相応して先進国の方が低開発国より賃金は下がっていなければならないはずです。しかし実際は先進国の方が賃金はずっと高いのです。このことは必要労働時間と賃金とは互いに何の関係もないことを示しているといえます。
 ここからも必要労働時間という概念が架空のものにすぎないことがわかります。このように労働力の価値をつくりだす必要労働という概念や、労働力の価値以上の価値をつくりだす剰余労働(不払い労働)という概念、必要労働時間を超えた超過分としての剰余労働時間という概念、そして労働力(剰余労働)のみによってつくりだされるという剰余価値の概念などもすべて架空のものにすぎないのです。
 したがって絶対的剰余価値と相対的剰余価値との概念も同じように架空の産物というほかありません。
 前回、明らかにしましたように機械も労働力と同様に利潤を生産するのですから、労働日を延長することによって、あるいは新しい機械を導入して生産性を高めることによって新たな利潤を得たとしても、それはみな労働(剰余労働)に起因する剰余価値であるとは決していえないのです。

■資 料

▼労働強化による剰余価値に対する日本共産党の見解
 「労働強度をたかめることは資本主義が搾取をつよめるための重要な方法です。…このばあい、労働力の価値はおなじでも、1労働日のなかでつくりだされる価値はふえていますから、労働日のなかにしめる必要労働部分の比重はさがり、その結果として剰余労働部分の比重がふえます。このかぎりでは、労働強化によって増大する剰余価値は、形のうえでは一種の相対的剰余価値です。しかし労働日が同一であるといっても、労働強化のばあいはより多くの労働が支出されていますから、実質的には労働時間が延長されたにひとしく、したがって労働強化による剰余価値は、実質上は、むしろ絶対的剰余価値と似ています」(岡本博之監修『科学的社会主義・上巻』新日本出版)

■批判のポイント
●機械の導入によって利潤が増大することをマルクスは認識していた
 資本家は剰余価値を増大させる方法として労働時間をぎりぎり延長するか(絶対的剰余価値)、労働日は一定のままで生産性を高めて必要労働時間を短くするか(相対的剰余価値)の2つあった。しかし、マルクスは「労働の生産力が増進すればするほど労働日は短縮されることができる」(『資本論』)と述べ、労働時間が短縮されることもあり得るとしていた。これはマルクス当時の資本家が労働時間を短縮せざるを得なかったにもかかわらず、彼らは性能のよい新しい機械を導入することによって利潤を増大させえたことをマルクスはよく知っていたからである。

●労働時間を必要労働時間と剰余労働時間という架空の概念で二分しており、そこから導き出される絶対的および相対的剰余価値もまた架空の概念でしかありえない
 労働時間=必要労働時間+剰余労働時間(不払い労働=利潤を生みだした分)という定義そのものが架空である。この架空の方式のもとで利潤を増やすには剰余労働時間を長くして労働時間全体を増やすか(すなわち絶対的剰余価値)、労働時間が一定ならば必要労働時間を短縮して剰余労働時間を増えたことにするか(すなわち相対的剰余価値)、2つの方法しかない。機械の導入によって利潤があがっているにもかかわらず、この方式に適用すると結局、必要労働時間が短縮されて剰余価値が増大したという答えしか出てこない。