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1,マルクス経済学・6  「剰余価値説」とは何か

マルクス経済学・6
[ポイント]前回まで労働価値説を見てきました。それを要約すると、商品の価値の大きさはそれを生産する社会的労働時間によって決まるというものです。この労働価値説を一層発展させ、より具体的に資本主義の経済体制の根本的な矛盾を暴露したとするのが剰余価値説です。マルクスはこの剰余価値説によって資本主義経済が不可避的に滅亡せざるを得ないことを立証したとしています。はたしてそうでしょうか。今回からマルクス経済学の主柱である剰余価値説の根本的な誤りに迫っていきます。

「剰余価値説」とは何か
■その主張
 マルクスの剰余価値説とはどんな考えでしょうか。その概略をおおざっぱにいえば次のようになります。
 【1】資本主義社会のすべての生産は利潤を前提条件としている。
 【2】利潤は流通過程で生じるものではない。
 【3】利潤の要素は労働過程すなわち生産過程で生み出される(商品の中にすでに含まれている利潤の要素を剰余価値という)。
 【4】剰余価値は生産過程のどこから生じるのかというと、労働力のみを基因として生じ、生産手段(機械や原材料など)からはいかなる剰余価値も生じない。
 【5】労働力も一商品であり、その価値はそれを生産するに必要な労働量によって決定される。
 【6】すなわち労働力の生産費は労働者の生活必需品(生活資料)の価値に等しく、それを貨幣で表したのが「労働力の価格」(労働力という商品を生産するための費用、生活必需品に対する費用)であり、これがすなわち労働者の賃金である。
 【7】それゆえに労働者は彼の賃金分の労働(これを必要労働という)だけ働けばよいはずである。
 【8】しかし、労働者は賃金分以上の労働をさせられており(これを剰余労働という)、この分は不払い労働となっている。
 【9】労働者の剰余労働(すなわち不払い労働)によって作り出された価値が、すなわち剰余価値である。この剰余価値をすべて資本家が取得してしまっている。商品の売買時における剰余価値の貨幣的表現が利潤であり、したがって資本家が労働者が生み出した利潤を搾取している。
 【10】その結果、賃金労働者が働けば働くほど資本家は利潤を増やし、資本は増殖し、巨大化することになる。
 【11】これが資本家による労働者の搾取であり、資本主義社会の構造的矛盾である。
 【12】したがってこの搾取をなくすには資本主義制度を打倒しなければならない。
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 以上が剰余価値説の概要です。これを次に詳しく見てみましょう。
 マルクスは生産過程から利潤が生じるとしましたが、その生産過程はさまざまな要素から成り立っています。すなわち原料、機械、労働力、建物、土地等々です。そのうちマルクスは労働力だけが利潤(の要素としての剰余価値)を生み出すとしたのです。
 マルクスは資本を二つに分け、資本のうちで原料や建物、土地、機械などを「不変資本」、労働力を「可変資本」と名付けました。不変資本というのは、変わらない資本、利潤(剰余価値)を増殖しない資本を意味し、可変資本とは変わる資本、利潤を生産する資本を意味するとしたのです。つまり、マルクスは労働力に転換された資本のみが価値増殖能力をもっており、その他は利潤を生まないと見なしたのです。
 不変資本はその価値を商品に転化させるだけだといいます。道具や機械は摩滅するだけであり(減価償却分の価値転換)、原材料は形を変えて商品に価値が移るだけです。機械を導入すれば生産性があがり利潤が増加するように見られますが、マルクスによれば機械は価値を生じないと断じています。
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 労働力のみが新たな価値を生み出すとなると「労働力」が大問題となります。
 マルクスによれば、労働力はあらゆる生産手段と同様に資本家に買われる一つの商品です。したがって労働力も他の商品と同じく、労働力の価値もそれを生産するに必要な労働量によって決定されるというのです。ところが他の商品と違って「人間の労働力は、彼の生きている個体の中だけに存在する」のであり、したがって「労働力の価値は、労働力を生産し、発達させ、維持し、永続させるのに必要な生活必需品の価値によって決定される」(『賃金・価格・利潤』)と説明しました。
 具体的には「労働者を労働者として維持するために、また労働者を労働者にそだてあげるために、必要な費用」(『賃労働と資本』)、つまり労働者の生存費が労働力の価値に等しいとします。それを貨幣で表したのが「労働力の価格」すなわち賃金になるというのです。
 ここが剰余価値説において注意を要する点です。一般的には賃金とは雇用者と非雇用者の間で契約された労働の報酬をさし、労働の機能に支払われる賃金として「労働の価格」とみられます。しかし、マルクスのいう賃金とは労働力という商品を生産するための費用、生活必需品に対する費用すなわち生存費を意味する「労働力の価格」なのです。この賃金の概念に注意しておく必要があります。
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 さて、労働者は賃金をもらって労働するのですからその賃金分だけ働けばよいことになります。それを必要労働といい、その労働時間が必要労働時間です。ところが実際は、労働者はその時間以上に働かされています。これが剰余労働です。その労働時間が剰余労働時間であり、この分を労働者は資本家に搾取されているとするのです。
 図を見て下さい。仮に5万円の商品があったとします。この商品を生産するのに労働力(賃金1万円)と生産手段(機械=減価償却分、原材料合わせて2万円)が使われ完成するとしますと、この労働過程で新たな価値(2万円)が生じていることになります。この新たな価値が剰余価値ですが、それは労働力すなわち労働者によって生み出されたものというのです。
 それを労働日(1日の8時間労働)でみると、労働力の価値に相当するだけの価値を作り出す労働(必要労働)とそれ以上の価値を作り出す労働(剰余労働)にわけてとらえます。仮に必要労働時間が4時間(つまり2万円分)としますと、残り4時間は剰余労働時間であり、これが剰余労働ということになります。ここで生じた利潤は本来、労働者に支払われなければならないのに、そうはなりません。すなわち不払い労働になっています。これを資本家は搾取しているというのです。
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 次回からは各論について詳しく批判していきます。
■訂正■
 前回の本文の中で一部で「効用価値説」との表現がありましたが、正しくは「効果価値説」です。訂正します。

■資 料■
▼「不変資本」と「可変資本」ーマルクスの言
「生産手段すなわち原料や補助材料や労働手段(機械、建物、土地など)に転換される資本部分は、生産過程でその価値量を変えないのである。それゆえ、私はこれを不変資本部分、たまはもっと簡単に不変資本と呼ぶことにする。これに反して、労働力に転換された資本部分は、生産過程でその価値を変える。それはそれ自身の等価と、これを超える超過分、すなわち剰余価値とを再生産し、この剰余価値はまたそれ自身変動しうるものであって、より大きいこともより小さいこともありうる。資本のこの部分は、一つの不変量から絶えず一つの可変量に転化して行く。それゆえ、私はこれを可変資本部分、またはもっと簡単には、可変資本と呼ぶことにする」(カール・マルクス『資本論』)

■用語解説
●剰余価値とは
 労働者は自らの報酬に該当する労働時間(必要労働時間)をこえて労働をし続けており、この必要労働をこえた労働時間を剰余労働とマルクスは呼ぶ。労働のみが価値を生み出すとの労働価値説にもとづけば、労働者の剰余労働によって生み出された価値がすなわち剰余価値であり、本来は労働者に属するものである。しかし資本家は剰余価値を労働者から搾取して無償で手に入れ、これが資本家の利潤の源泉となり資本の巨大化を生んでいるとマルクスはみる。

●資本とは 
 一般的には資本は資本財の集合およびそれを購入する資金とされ、生産の三要素(土地・労働・資本)の一つとされる。しかし、マルクスにあっては資本は「自己を増殖する価値」であり「金の卵を生む価値」とする運動体、「社会的関係」としてとらえる。すなわち資本とは賃金労働者を搾取することによって剰余価値をもたらす価値のことをいう。したがって資本家が労働者から労働力を買い入れて労働者を働かせることによって剰余価値(利潤)が生産されるとき、初めて「貨幣は資本に転化する」とされる。近代経済学にあっては資本財および中間生産物もしくはそれを購入するために投下された資金を資本と定義されている。